座談会

wig+(ウィッグプラス)座談会─JHD&C×アデランス×資生堂-3

ISSUE wig+(ウィッグプラス)座談会─ JHD&C×アデランス×資生堂-3

wig+を開発するに至った理由、また、JHD&C、アデランス、資生堂それぞれの担当者が、髪に悩みをもつ人たちと社会生活についてどのように考えているかなど、たっぷり語り合った座談会の様子をお届けします。

wig+開発のこだわり

渡辺
渡辺:

wig+の開発では本当に細部までこだわってくださいましたが、神宮司さんのこだわりを改めてお聞かせ願えますか。

wig+について語り合う神宮司さんと渡辺

wig+について語り合う神宮司さんと渡辺

神宮司
神宮司:

ヘアメイクのお仕事や美容師としてウィッグに携わる中で、お客さまが感じているウィッグの一番のお悩みは何かというと「不自然に見えないようにしてほしい」ということなんです。
ですから、wig+ではおでこの生え際をできるだけ自然にフィットするようにしてくださいとアデランスさんにお願いしました。

ウィッグの生え際って、どうしても点々とした黒い線になる商品が多いんですよね。今回はバングメソッド(前髪と印象の法則)を取り入れたウィッグですので、前髪をふわっと立ち上げたり、逆に下ろすこともできるという点にこだわって、水沼さんに何回も試作をお願いして、今までにない肌なじみの良さにこだわって作っていただきました。

wig+は生え際の自然さにこだわって製作した

wig+は生え際の自然さにこだわって製作した

渡辺
渡辺:

wig+は神宮司さんのこだわりや熱意と、水沼さんの開発者としてのポテンシャルを最大限に活かせるように、僕たちJHD&Cと資生堂の「チーム神宮司」の皆さん、アデランスの医療事業部や商品企画開発部の皆さんが全力でバックアップして完成しました。

必ずいいものができるという確信があったからこそなんですが、神宮司さんのオーダーに対して水沼さんはどう受け止めていらっしゃったんですか?

水沼
水沼:

私はアデランスに入社してからずっとウィッグの開発に携わっているんですけど、最先端の美容師さんである神宮司さんの意見を聞いて開発することは初めての体験でしたので、新鮮な発見がたくさんありました。

ウィッグは通常、生え際を見せないようにするため、フロント部分の毛量は割と多いんです。今回のように肌色を見せて自然にするということは、毛量を減らして、なおかつ目立たないようにするっていう、いつもと逆のやり方なんですよ。そのこだわりを工場に理解してもらうのが重要でした。

アデランス商品企画開発部 水沼宏樹さん

アデランス商品企画開発部 水沼宏樹さん

今西
今西:

wig+は、アデランスさんがこれまで作ってこられた製品のコンセプトと違いますから、製作工場の方への説明もご苦労があったと思います。

水沼
水沼:

当社のウィッグをはじめ、一般的に展開されている既製品のウィッグというのは購入されてからすぐに着用できるようヘアスタイリングされています。多少のアレンジはできるとしても、ユーザーさんにお手間がかからないように完成した状態のウィッグが主流です。私が今まで関わった開発も「当社のスタッフが取り扱いやすく、おすすめしやすい商品」や「直接購入されるユーザーの方が使いやすい商品」がコンセプトであることが多かったんですね。

ところが、wig+は神宮司さんのバングメソッド(前髪と印象の法則)を最大限に活かせる、そしてウィッグに慣れていない美容師さんでも扱いやすいことが重要なコンセプトだったので、今までの開発と全く違うものになりました。
もちろん大変なことも多かったんですけど、違う考え方や視点を取り入れながら進める開発というのは本当に新鮮でしたし、刺激的な挑戦になったと思います。

開発期間中はコロナの影響で工場にも気軽に行けませんでしたので、メールで試作品の画像を拡大表示して、ここをもうちょっとこうしてほしいとか、こんな感じにしてほしいとか、意図を説明しながら要望を伝えたりしました。

また、いいウィッグを作るためにはどうしても高額になってしまうという課題もあったんですけど、せっかくコラボレーションするのに「できない」とは言えないですよね。プライドにかけていいものを作りたいっていう思いがありましたから、考えに考えて開発しました。その結果これまでにない、美容師さんにとって扱いやすいウィッグができたと思っています。

wig+開発時の思いを語り合う神宮司さんと水沼さん

wig+開発時の思いを語り合う神宮司さんと水沼さん

美容師さんにとって、扱いやすいウィッグを

渡辺
渡辺:

「美容師さんにとって扱いやすいウィッグ」って大切なキーワードですよね。

最初にお話しした通り、そもそもwig+開発のきっかけは、年齢制限のないウィッグを作りたいということと、ウィッグがひとつだけだと「洗い替え」がなくて不便だということです。

人間って頭の大きさはあまり変わらなくて、小学生の時に作ったウィッグを高校3年生まで使っていた例もあります。だからおひとりの方が複数のウィッグを必要とされるのは、サイズアウトが主な理由じゃなくて、毎日使って毛先が傷んでくる経年劣化のためだったり、日常生活にどうしても不都合があるからもう1つ必要だったりと、さまざまな理由があるんですよね。

水沼さんがおっしゃった「美容師さんが扱いやすい」っていうのも、ウィッグの一般化という大きな目的が込められています。一般化するためには、ウィッグ専門店ではない普通のサロンでウィッグが扱えるようになることが重要なんですね。

1つのウィッグでさまざまなスタイルが楽しめるwig+

1つのウィッグでさまざまなスタイルが楽しめるwig+

今、日本国中に25万軒の美容室があって、その中でウィッグを取り扱えるサロンはたぶん1%以下だと思うんですよ。JHD&Cの賛同サロンの中でもウィッグカットができるサロンは約670件(2022年6月現在)です。

今西
今西:

ウィッグユーザーさんから、ウィッグを切ってほしいと美容室に電話したけれども何軒も断られて、どこかウィッグカットしてくれるサロンはないでしょうかといったお問合せもたびたびいただきますよね。

渡辺
渡辺:

ウィッグは非常に高価なものだという思い込みもありますし、よく分からないものだから怖くてカットできないんですね。これは美容師にとってもすごく残念なことです。
wig+にはファッションの最前線で活躍して来られた神宮司さんの技術と経験、何よりその集大成でもあるバングメソッドが惜しみなく注がれています。こんなウィッグはどこにもないですよね。

今日撮影した神宮司さんのウィッグカットのレクチャー動画を見た美容師さんが、ウィッグって意外と難しくないんだ、私でもできるんじゃないかって思ってもらえたら嬉しいです。

そうやってウィッグを扱えるサロンが増えたら、ものすごく利便性が高まると思うんですよ。

神宮司
神宮司:

お店に今来てくださっているお客さまも、私とともに年を取って髪が少なくなってきたり、病気で治療中の方もいらっしゃいます。信頼して通ってくれているお客さまに寄り添うために、ひとつのツールとしてウィッグはもっと必要になっていくだろうなという感覚がありますね。

ウィッグを取り入れるとヘアスタイルの可能性がすごく広がるのに、苦手意識があるともったいないなと思います。いろんなことが選択肢にあった方がいいですし、美容師さんにとっても引き出しが増えるわけですから、ウィッグを扱えるようになりたいという美容師さんはこれからどんどん増えていくんじゃないかなと思いますね。

今西
今西:

ウィッグって脱毛や薄毛に悩んでいる人のものというイメージがなんとなくありますけど、そういう固定概念からもっと自由な社会になってほしいです。
ビジュアル撮影の際にモデルさんがおっしゃった「ウィッグでヘアスタイルを楽しむために、髪を短くしておいてもいいと思う」という言葉が印象的でした。

ヘアスタイルを楽しむためのウィッグを

ヘアスタイルを楽しむためのウィッグを

神宮司
神宮司:

そうですね。自分の地髪はかなり短くしておいて、その日のイメージに合わせてウィッグを変えて楽しむという考えもあるなと、今回ビジュアルを撮影して思いました。ジェンダーレスで、いろんな方が使いやすいようにボブスタイルをベースにして、ちょっとカットすればどなたでも似合うようなヘアスタイルにしたことも、こだわりのひとつですね。