インタビュー

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ISSUE 【ヘアドネーションタオル製作 episode.1】 ツバメタオル株式会社 谷社長インタビュー

JHD&Cと泉州タオルの老舗メーカーであるツバメタオル株式会社のコラボレーションでヘアドネーションタオルが完成しました。

ツバメタオル株式会社 谷社長インタビュー

ヘアドネーションタオルは、ウィッグユーザーであるレシピエントとヘアドネーション(髪の寄付)を行うドナーの使い心地を第一に製作したタオルです。

ウィッグケアに適した吸水性とサイズのタオルはJHD&Cと泉州タオルの老舗メーカーであるツバメタオル株式会社がコラボレーションして製作しました。タオル工場見学の様子はこちらからご覧ください。

オーガニックの綿を畑から選定して仕入れるところから始まるタオル作り

渡辺
JHD&C代表 渡辺(以下、渡辺):

今日は工場を見学させていただき本当にありがとうございました!
僕、機械が好きなので、時間があったら機械を解体してメンテナンスや掃除をするところまでじっくり拝見したかったです。それくらい面白かったし、勉強になりました。

谷
ツバメタオル株式会社 谷社長(以下、谷):

我々からしたら日常的で当たり前のことだけれども、外部の方が見たら珍しいものですよね。もちろん、玄人目で見ても唸るようなところはね、いくつもあるんですよ。

ツバメタオル谷社長にインタビュー

ツバメタオル谷社長にインタビュー

渡辺
渡辺:

どんなことですか?その「唸るようなところ」というのは。

谷
谷:

そうですね……まずは原料の綿(わた)の仕入れでしょうか。

当社はオーガニックの綿を畑から選定して仕入れているのですが、農薬を使わないので、虫がたくさんいるんですよ。そういう畑で、なおかつトレーサビリティがしっかりしているインドから仕入れています。

CHECK!

オーガニック(organic)
有機農産物およびその加工食品のこと。化学物質である農薬、化学肥料を使用する現代農業に対して、それらを排除し環境に配慮するという考え方。農産物については一般的に「3年以上農薬、化学肥料を使用していない農場で栽培され収穫されたもの」を指す。
渡辺
渡辺:

オーガニックにこだわるのは、なぜなんですか?

綿の実と種

綿の実と種

谷
谷:

綿っていうのはね、植物の中で一番農薬使う植物なんですよ。

まず種を殺菌するために農薬を使って、芽が出たらまた殺菌して……というように、農薬を一番使う植物らしいんです、この大地でね。

それで、最終的に枯葉剤を散布する。枯葉剤を撒いて葉っぱを散らして、機械でどーっと収穫していく。ベトナムの「ベトちゃんドクちゃん」ってご存知ですか?あれもアメリカが撒いた枯葉剤の影響と言われていますよね。どうしたって体には良くないものである以上、避けられるものだったら極力避けたいっていう気持ちがありますね。

CHECK!

枯葉剤
除草剤の一種で、ベトナム戦争でアメリカ軍が使用したことで知られる。猛毒のダイオキシンが含まれ、人と自然への影響と残留性が問題になっている。
ベトちゃんドクちゃん
ベトナム戦争中に米軍がまいた枯葉剤の影響とみられる結合双生児として生まれた双子の兄弟の日本語による愛称。1988年に行われた分離手術は17時間に及び、世界中が見守った。2007年10月、兄のグエン・ベト氏死去。
渡辺
渡辺:

枯葉剤って、綿を採るために作られたものなんですか?

谷
谷:

そうです。綿花ってね、成長すると腰ぐらいまでの高さになって、下の方から花が咲いていくんです。「ファーストピック」と言って、まず一番下の花を収穫する。次に「セカンドピック」という真ん中部分に咲いた花を収穫して、最後に上の方に咲いた花から「サードピック」を収穫する、と。

その作業は普通、人力で行うんですが、アメリカの大規模農場は広大すぎて、そこまで手をかけることができない。だから、全部花を咲かせるんです。その状態で農薬、つまり枯葉剤を撒いて、葉っぱを落として機械で一気に収穫する。

インドやパキスタンといった他の地域では、農場自体がそこまで大きくなくて、畑に機械が入らないんですよ。つまり、枯葉剤を散布する必要がない。そんなことを考えると、やっぱり少しでも農薬が使われていないものを使ってものづくりがしたいというところですよね。

「良いものをみんなで広く使っていこう」

ツバメタオルではオーガニックの綿を畑から選定して仕入れている

ツバメタオルではオーガニックの綿を畑から選定して仕入れている

渡辺
渡辺:

御社でのそういった取り組みは、かなり早くからなのですか?

谷
谷:

そうですね、日本においてはかなり早い段階から取り組んでいます。当社としては「良いものはみんなで広く使っていこう」という考えで、生産者として良いものを作りたいという思いが強いですね。

インドの山奥の町に綿花を買いに行くと、オーガニックの綿を作っているところってガスも堆肥で作っていたりして、その町自体がオーガニックみたいなところなんですよ。

渡辺
渡辺:

そもそも、オーガニックっていうものの捉え方が間違っているような気もしますね。オーガニックで出来上がったものの性能や品質がことさらにいいとかじゃなくて、土地を汚さないとか、農家や生産者に害を及ぼさないみたいな、そういうことじゃないかと思います。

谷
谷:

家族総出で、子どもたちが収穫することも多いですから。農薬いっぱいの畑に入って行ったら子どもの体にも良くないですよね。

自然由来のりとバクテリアの力

渡辺
渡辺:

今日御社の敷地に入った時に、綿(わた)がふわって舞ったのがすごく雰囲気があるなと思ったんですよ。

谷
谷:

近隣の敷地に飛ばないように、毎日朝晩しつこいくらいに掃除をしているんですけどね(笑)。化学のりを使えば毛羽が出にくくなるんですが、当社ではでんぷんのりを使っているから、どうしても毛羽が出やすいんです。

渡辺
渡辺:

使うのりによって、そんなに違うのですか。

谷
谷:

はい、化学のりというのはいわゆる「水のり」ですね。合成のりのことです。接着力はとても高いです。

一方、でんぷんのりというと、よく幼稚園や小学校で使うチューブに入った白いのり、あれがそうです。でんぷんが主原料で、化学のりに比べると接着力は高くない。
当社で使っているのはオランダで作られている「AVEVE(アベベ)のり」というものです。コーンスターチや、ジャガイモなどの自然由来のでんぷんが配合されています。

CHECK!

AVEVE(アベベ)のり
オランダのAveve社が製造するでんぷんのりのこと。
渡辺
渡辺:

子どもの頃、お米を潰してのりの代わりにしたことがありましたが、それに近い感じですね。ところで、どうしてわざわざ接着力が高くないのりを使うんですか?

谷
谷:

でんぷんのりは、バクテリアが食べてくれるんですよ。そもそもどうして糸にのり付けするかというと、糸をピンと張ってテンションをかけた状態で織りますので、糸が切れないように強度を上げるためです。

効率を重視するなら化学のりを付けて糸を補強すればいいんですが、当社の場合は後の工程で有機精練があったり、浄水する時にバクテリアさんに食べていただかないといけない。化学のりを使えば織りやすいのですが、そういうことを遡って考えていくと、でんぷんのりを使う必要がありました。

でんぷんのり(AVEVEのり)

でんぷんのり(AVEVEのり)

肌と環境に優しいタオルを

谷
谷:

以前、当社の会長に「どうして有機精練を考えたのか」と聞いたことがあるんです。そうしたら、会長の娘さんがアトピー性皮膚炎を発症されたんです。少しでもその悩みを解消したいと思ったことがきっかけだと話していました。

そこで、有機精練法を考案して特許も取得しましたが、製法は広く公開して特許料は一切いただいていません。先ほどもお話ししたように、良いものはみんなで広く使っていこうというのが当社の考え方ですから。

綿花というのは、顕微鏡で見ると穴がたくさん空いてるんですよ。その中にどんなものが入ってるかわからない。

のりも、よく洗わなかったら残るわけです。泉州タオルは後晒(あとざらし)のため何度も何度もしっかり洗うので、のりなども落ち切っているんですが、万が一残っていたとしても、可能な限り肌に優しい成分の方がいい。そういう考えで選んでいます。

染料にしても、オーガニック認証を受けた染料で染めるんです。

オーガニック認証を受けた染料

オーガニック認証を受けた染料

化学薬品を全くのゼロで作ることは現実的には難しいんですが、糸まで遡って最終工程まで、可能な限り優しいもので作りたいという気持ちですね。

手間もコストもかかるし、掃除も大変で生産性が良いとは言えないものだけれども、これからもオーガニックは我々の「標準装備」として、頑張って作り続けていきたいと思っています。

染工場と緊密に連携できるのもすごく強みなので、ありがたいですね。
北川さんや当社の会長を見ていると、背筋が伸びますよ。しっかり物作りせなあかんなと。

CHECK!

アトピー性皮膚炎
痒みのある湿疹が慢性的に良くなったり悪くなったりを繰り返す病気。もともとアレルギーを起こしやすい体質の人や、皮膚のバリア機能が弱い人に多く見られる。
後晒(あとざらし)
泉州タオルの特徴のひとつ、生地が織り上がったあとに精錬をする「後晒(あとざらし)」という製法。詳しくは工場見学ページへ
渡辺
渡辺:

ものづくりや環境に対する皆さんの哲学、考え方を知ることができて、大変勉強になりました。今日は貴重な機会をいただき、ありがとうございました!

ツバメタオルの谷社長とJHD&C代表、職員で記念撮影

ツバメタオルの谷社長とJHD&C代表、職員で記念撮影
取材協力:ツバメタオル株式会社

奥深いタオルの技術について、環境に配慮した設備や工法について、繊維業界のエシカル、サスティナビリティについては【ヘアドネーションタオル製作episode.2】ダイワタオル協同組合 北川顧問インタビューをご覧ください。

ツバメタオル株式会社とコラボしたヘアドネーションタオルは泉州タオルと呼ばれる種類のタオルです。ツバメタオルの機械設備と熟練の技による泉州タオル製造の工程、そして環境のための取り組みを、工場内部の写真を交えて詳しくご紹介しています!

泉州タオル工場見学レポート